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治療抵抗性骨肉腫への新規分化転換治療法の開発
-ROCKの阻害は、化学療法抵抗性の骨肉腫細胞に脂肪への最終分化を誘導し、腫瘍形成を抑制する-

星薬科大学薬学部病態生理学研究室 清水孝恒

Takahashi, N., Nobusue, H., Shimizu, T., Sugihara, E., Yamaguchi-Iwai, S., Onishi, N., Kunitomi, H., Kuroda, T. and Saya, H.
ROCK inhibition induces terminal adipocyte differentiation and suppresses tumorigenesis in chemoresistant osteosarcoma cells.
Cancer. Res. 79: 3088-3099. DOI: 10.1158/0008-5472.CAN-18-2693 (2019).

https://cancerres.aacrjournals.org/content/79/12/3088.long


悪性腫瘍に対して治療を行うも抗がん剤が効かない、あるいは効かなくなる現象を化学療法抵抗性といいますが、その特性こそが、がんの治癒を困難なものにしています。そして腫瘍組織は、治療が効きやすい細胞と化学療法抵抗性の細胞の不均一な細胞集団により構成されています。

骨肉腫は若者に好発する、骨から発生する悪性腫瘍で、未だ3割の患者さんで長期生存が得られておりません。化学療法抵抗性の細胞が体内に残存することが治療を難しくしており、新規治療法の開発が求められています。

私たちはこれまでに、マウス骨髄間質細胞に癌遺伝子c-MYCの過剰発現および癌抑制遺伝子Ink4a/Arfを欠損することによって、転移を伴い致死性の腫瘍を形成する骨肉腫起源細胞(OSi)を樹立しました(Shimizu et al., 2010, Oncogene)。また、これらOSi細胞は、分化能の異なる細胞、即ち、骨・軟骨前駆細胞の特徴を有するAX細胞と間葉系幹細胞(骨・軟骨に加え脂肪への分化能をもつ)の特徴を有するAO細胞の2つのサブクローンから構成されることを見出しました。

今回、私たちはOSi細胞において化学療法抵抗性を有するサブクローンを同定するとともに、これらの細胞に対する新規治療法の開発を試みました。

AO細胞はAX細胞と異なり、骨肉腫の化学療法に用いられる抗がん剤(ドキソルビシンあるいはシスプラチン)に対して高い抵抗性を示すことを見出しました。また、ヒト骨肉腫組織を用いた解析において、悪性度の低い骨肉腫ではAO様細胞はほとんど認められませんでしたが、化学療法後に再発した骨肉腫ではAO様細胞が多数存在することを見出しました。このことから、マウスのみならずヒト骨肉腫においても、AO細胞が化学療法抵抗性に関与することが示唆されました。

信末らはこれまでに、アクチン細胞骨格制御により、脂肪分化が誘導される分子機構を見出しております(Nobusue et al., 2014, Nat Commun)。そこで、脂肪への分化能を有し、化学療法抵抗性であるAO細胞に対して、アクチン細胞骨格の動態を制御するRhoキナーゼ(ROCK)を阻害したところ、アクチンと直接結合する転写調節因子のMKL1の核内移行および転写を抑制し、それに続き、脂肪細胞への終末分化が誘導されることを明らかにしました。特に、くも膜下出血術後の脳血管攣縮の治療薬として臨床応用されているROCK阻害薬ファスジルは、AO細胞およびヒト骨肉腫細胞株において脂肪細胞分化を誘導するとともに、増殖を抑制することがわかりました。さらに、AO細胞を皮下移植したマウスにファスジルを投与すると、骨肉腫内にて脂肪細胞分化が誘導され、腫瘍形成が抑制されました。研究過程で分子プロファイリング支援班より、抗腫瘍薬、様々な分子に対する阻害剤を御提供頂き、ファスジルとの混合添加により骨肉腫細胞に対して、強力な増殖抑制作用を有する化合物を同定することができました。最後に、AO、AX細胞を含む不均一なOSi細胞集団をマウスに皮下移植し、ドキソルビシンとファスジルの併用投与を行いました。その結果、それぞれ単剤投与した骨肉腫と比較して、併用投与した骨肉腫では、終末分化した脂肪細胞が多数観察され、腫瘍体積が劇的に減少することを見出しました。

本研究の結果から、化学療法抵抗性の骨肉腫細胞において、アクチン細胞骨格の動態を変化させることで、脂肪細胞への終末分化を誘導し、腫瘍増殖を抑制するという新たな治療法(分化転換治療法)を開発できる可能性が示されました。今後、本研究で見出されたROCK阻害剤ファスジル、さらにはドキソルビシンとの併用が、ヒト骨肉腫において脂肪細胞への分化転換を誘導し腫瘍抑制できるか、臨床試験を視野に入れて検討したいと考えております。

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