がん生き残りの代謝戦略としてのチミジン異化

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 河原康一(被支援者)、古川龍彦

Tabata S, Yamamoto M, Goto H, Hirayama A, Ohishi M, Kuramoto T, Mitsuhashi A, Ikeda R, Haraguchi M, Kawahara K, Shinsato Y, Minami K, Saijo A, Hanibuchi M, Nishioka Y, Sone S, Esumi H, Tomita M, Soga T, Furukawa T, Akiyama SI.
Thymidine Catabolism as a Metabolic Strategy for Cancer Survival.
Cell Rep. 19(7):1313. DOI: 10.1016/j.celrep.2017.04.061. (2017)

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211124717305727?via%3Dihub


Thymidine phosphorylase(TP)は加リン酸化的に可逆的にチミジンをチミンと2-デオキシリボース1リン酸(DR1P)への変換を触媒する酵素で、血小板由来血管内皮増殖因子(PD-ECGF)と同一の分子です。TPの発現は血管新生を誘導することが知られており、またMMP1, IL-8などの発現との相関があり、胃がん、大腸がん、膀胱がんなどの予後不良の因子で、腫瘍の悪性化との関わっていることを報告してきました。その作用の一部は代謝物デオキシリボース(DR)によることを明らかにしましたが、分子機構については依然として不明な点が多く残っています。

TP発現培養細胞では非発現細胞に比べて無血清培地での増殖期間が延長しており、また、解糖系阻害剤2デオキシグルコース(2DG)に対する耐性を見出しました。安定同位体13Cチミジンを用いたメタボローム解析からTP発現細胞では13C が解糖系下流の産物と乳酸と3-ホスホグリセリン酸(3PG)を介すると考えられるセリン、解糖系上流のグルコース6リン酸(G6P)、ペントースリン酸経路(PPP)を介したホスホリボシルピロリン酸 (PRPP)などの蓄積が観察されました。これらの代謝産物はTP非発現細胞では確認できませんでした。これらの結果はチミジンから解糖系への代謝経路の存在とそれによる低栄養下での生存優位性が賦与されることが予想されました。チミジン代謝物のDR1PとDR が酵素的に2-デオキシリボース5リン酸(DR5P)に変換されたあと、細菌ではDR5Pアルドラーゼ(DERA)によって解糖系の中間代謝物グリセルアルデヒド3リン酸(GAP)に変換されることが知られていますが、動物細胞でこの経路が機能しているか明らかではありませんでした。そこで、TP発現細胞でDERAをノックダウンするとDR5Pが蓄積し、低栄養下でのTP発現細胞の生存が抑制されて、この経路の重要性が確認できました。

in vivoでもTP/UP(uridine phosphorylase)ダブルノックアウトマウス (マウスUPには高いTP活性化あるため)と野生型のメタボローム解析の結果から解糖系、PPP、TCAサイクルに有意な代謝物量の差がみられました。TP発現ヒトがん細胞を異種移植したヌードマウスに13Cチミジン投与後に、TP発現のない脾臓に比べてTP発現のある移植腫瘍と肝臓では、チミジン由来産物の早期の消失と13C乳酸の蓄積がみられました。さらに、ヒトの12例の胃がん症例でのメタボローム解析では腫瘍内でチミジンの蓄積が低下し、逆にデオキシリボ―スリン酸 (DR1P+DR5P)の蓄積が観察されました。

以上の結果からTPとDERAの働きによってチミジンの炭素がDR5Pを介して解糖系へ炭素が流入することによって、TPの発現上昇は低栄養下でのチミジンを用いた腫瘍細胞の生き残りに有利に働いているものと考えられました。

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