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  5. フォルミン蛋白質Fhod3は、マウス大脳皮質の錐体神経細胞のなかでも特定の亜集団の樹状突起の形態を制御する

フォルミン蛋白質Fhod3は、マウス大脳皮質の錐体神経細胞のなかでも特定の亜集団の樹状突起の形態を制御する

宮崎大学医学部 武谷立

Sulistomo, H.W., Nemoto, T., Kage, Y., Fujii, H., Uchida, T., Takamiya, K., Sumimoto, H., Kataoka H., Bito, H., and Takeya, R.
Fhod3 controls the dendritic spine morphology of specific subpopulations of pyramidal neurons in the mouse cerebral cortex. Cereb. Cortex 31:2205-2219 doi:10.1093/cercor/bhaa355 (2021).

https://doi.org/10.1093/cercor/bhaa355


 神経細胞の樹状突起から突き出した棘状の構造物を樹状突起スパインと呼びます。この樹状突起スパインは、他の神経細胞からの入力を受け取る場であり、その形や大きさを変化させることで情報伝達、すなわち神経活動を調節していると考えられています。樹状突起スパインの形態的変化は、アクチン細胞骨格の動的な編成に依存していることが分かっていますが、様々な種類の神経細胞が同じ分子を使って全く同じメカニズムでスパインの形を変えているのか、あるいは神経細胞の種類に応じて、アクチンの動態が異なる様式で制御されているのかは、まだほとんどわかっていませんでした。

 私達は、アクチン細胞骨格の動的な編成を担うフォルミンタンパク質に着目し、樹状突起スパインの形態変化におけるその役割を解析しました。フォルミンタンパク質は、哺乳類には15種類のメンバーが存在し、その中のいくつかのメンバーは大脳皮質に発現していますが、各々が異なる発現パターンを示していました。今回着目したFhod3は、マウス大脳皮質の限られた領域のII/III層およびV層の興奮性錐体神経細胞に特異的に発現し、その樹状突起スパインに集積していました。脳特異的にFhod3を欠失させたところ、脳の外観や組織学的な変化は見られませんでしたが、本来Fhod3が存在すると推定される領域内の錐体細胞の樹状突起スパインに形態的な異常が見られました。また、Fhod3を欠失させた大脳皮質から調製した初代培養細胞では、スパインの形態異常が、Fhod3プロモーターが活性化しているごく一部の集団でのみ検出され、Fhod3プロモーターが陰性の錐体神経細胞では検出されませんでした。

 このように、Fhod3は錐体神経細胞の特定の集団においてのみ、細胞種特異的に樹状突起スパインの形態形成に重要な役割を果たしていると考えられました。今後、それぞれの細胞集団特異的な制御機構が明らかにされることで、それぞれを標的とした多様な精神神経疾患の新規治療法の開発に繋がることが期待されます。


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