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Revealing chiral cell motility by 3D Riesz transform-differential interference contrast microscopy and computational kinematic analysis. 

新潟大学医歯学系神経生化学(医学部生化学第二) 五十嵐 道弘

Tamada A, Igarashi M. 
Nat Commun. 2017 Dec 19;8(1):2194. DOI: 10.1038/s41467-017-02193-w.


 生命現象の中には心臓の発生や大脳皮質の機能分化など、左右非対称(laterality)で生ずる現象が数多くあります。このような個体・器官レベルの左右差は、細胞の左右非対称運動に基づいて形成されると想定されていますが、この非対称性の実態は解析が十分に進んでいないのが実情です。この解析には、空間的・時間的な4Dの膨大なデータ計測と解析が必要不可欠となり、1)3Dライブイメージングの計測・可視化技術、2)高次元の画像データから形と動きを自動解析する技術、を必要とするため、本研究ではこれらを開発しました。
 本研究では、リース(Riesz)変換と呼ばれる数学的操作により、微分干渉像に含まれる陰影付きの位相情報を輝度情報に変換し、「リース変換微分干渉顕微鏡法(RT-DIC)」と名付けて、これを使って蛍光像とほぼ等価な、明るく光る輝度画像を得て、脆弱な細胞をライブイメージングで3D可視化に成功しました。さらに多次元画像データから細胞の形と動きを自動解析するため、フレーム間の3D変位ベクトルをオプティカルフローとして計算し、回転物理量を推定することに成功しています。画素ごとの形状情報と運動情報を時空間的に統合し、運動軌跡の追跡にも成功しました。
この方法的有用性を確認するため、発達期の神経細胞での運動性に富んだ先導端である神経成長円錐(哺乳類のマウスの脳で実験)、および細胞運動の研究によく使われるモデル生物の細胞性粘菌に関して、3D空間での形と動きを詳細に可視化し定量しました。成長円錐については、フィロポディアが右ねじ回転と後退運動の合成により左らせん運動すること、細胞性粘菌では、フィロポディア様の突起構造が成長円錐同様に右ねじ回転することを新たに解明することができました。哺乳類(マウス)と細胞性粘菌は系統学的には全く離れていますが、類似の非対称性運動様式を示すことがわかり、細胞レベルのメカニズムに関して共通性も示唆されました。本研究のRT-DIC法は低毒性であり、これまでは蛍光顕微鏡で扱うことが困難であった、生細胞の3D構造のイメージングを可能にすることができ、応用範囲が広いものと考えています。

図(左)=本研究で明らかとなった細胞性粘菌の左右非対称性運動:この細胞はフィロポディアを右ねじ回転させ、全体として右方向に旋回移動する。図(右)=成長円錐の左右非対称運動:フィロポディア内の運動性により、細胞性粘菌と同様に運動が展開する。

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