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新生仔豚仮死モデルにおいて、低酸素虚血負荷後30分以内の脳血液量上昇は脳の病理組織学的重症度と相関する

香川大学医学部小児科学講座
中尾 泰浩、日下 隆(被支援者)

Nakao, Y., Nakamura, S., Htun, Y., Mitsuie, T., Koyano, K., Ohta, K., Konishi, Y., Miki, T., Ueno, M., Kusaka T.
Cerebral hemodynamic response during the resuscitation period after hypoxic-ischemic insult predicts brain injury on day 5 after insult in newborn piglets.
Sci Rep., 12: 13157 (2022). doi: 10.1038/s41598-022-16625-1

https://www.nature.com/articles/s41598-022-16625-1


新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)は、分娩前後の脳循環・酸素代謝障害により起こる脳障害で、脳性まひの主要な原因の一つです。HIEによる脳障害は二つの起点があります。一つ目は、分娩前後の低酸素虚血により生後0-1時間以内に起こる最初の脳障害であるPrimary Energy Failureで、二つ目は生後6-24時間に再灌流障害により起こる二つ目の脳障害であるSecondary Energy Failureです。分娩時のPrimary Energy Failureに伴う脳障害を軽減することは難しいですが、Secondary Energy Failureに伴う脳障害を軽減することで予後の改善が見込めます。脳障害を軽減する治療法はいくつか報告がありますが臨床応用され一般的に施行されている治療法は軽度低体温療法(34-35度、TH)のみで、その適応も中等〜重症の脳障害が予測される児のみとなっています。HI受傷後に出来るだけ早くTHを開始することが予後改善に繋がるため、生後早期の出生直後から脳障害の重症度判定を行うことはその予後改善に大きく寄与すると考えます。

HIEを発症するような新生児仮死で生まれた児を蘇生する方法として新生児蘇生法(NCPR)が広く普及していますが、NCPRの際に用いられる生体パラメーターモニタリングとしては心拍(HR)、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)のみで脳循環の評価は行っておりません。近年、ベッドサイドで脳循環酸素代謝を測定可能な、近赤外光分光装置(NIRS)が注目されています。NIRSは相対的な酸素化Hb(OxyHb)・脱酸素化Hb(DeoxyHb)・総Hb(tHb)の変化をモニタリング可能な装置で、相対的なOxyHbとtHbの商から、脳酸素代謝の指標である、組織ヘモグロビン酸素飽和度 (ScO2)が測定可能です。また、NIRSの発展型である近赤外光時間分解分光装置(TRS)ではOxyHb・DeoxyHb・tHbの絶対値が測定可能で、これらの値から脳血液量(CBV)を算出することが出来ます。そこで本研究では新生仔豚仮死モデルを対象にTRSを用いて脳循環代謝の指標であるScO2、CBVと体循環代謝の指標であるHR、平均動脈血圧(MAP)と脳の病理組織学的障害との関係を検討しました。

新生仔豚に低酸素虚血(HI)負荷を行い、HI負荷後30分間のScO2、CBV、HR、MAPの4項目と、HI負荷後5日目の脳の病理組織学的スコアについて検討しました。しかしながら、各時間における数値と脳障害との関係に相関は認めませんでした。そこで、負荷終了時点を0分とし5、10、15、30分時点での変化量と脳の病理組織学的スコアについて再検討したところ、CBVは全ての時間で相関を認め時間経過と共に相関は大きくなりました、一方で他の3項目では相関を認めませんでした。臨床的に生直後からの測定は困難であることが予想されることから負荷後5分時点から10、15、30分時点でも同様の解析を行った所CBVは負荷終了時点を0分とした時と同様の結果を認め、その他のパラメータも一部のみで相関を認めました。以上の結果からHI負荷後0もしくは5分から5・10・15・30分のCBVの変化は脳病理組織学的障害を反映するが、ScO2・HR・MAPは反映しない可能性があることが明らかとなりました。

HI負荷後30分におけるCBV値変化は,脳血流自動調節障害による脳血液のうっ血を反映していると考えられました。HI障害は、脳血流量(CBF)が維持される代償期と、それに続くCBFが維持出来なくなる非代償期に分けられます。代償期に負荷が終了した場合、脳障害は軽度で、脳自動調節能も維持されるため、HI負荷後に全身血圧やHRの上昇を認めても、脳自動調節機能が働きCBFは安定し、CBV増加は少なく、速やかに低下します。そのため、再灌流障害も軽度となると思われます。一方で、非代償期に至ってから負荷が終了した場合は、脳障害は重度となり、脳血流自動調節機能低下による脳血管弛緩を起こすため、負荷後の全身血圧やHR上昇の影響を直接受けCBFは上昇し、その結果CBVも上昇します。その結果、再灌流障害も増大すると推察されます。

今後は、今回の研究成果のヒト新生児への応用が期待されます。

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