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マウスの体内で作られるビタミンCは活性酸素を除去することで生命の維持に必須であることが判明 〜ビタミンC欠乏は肺病死に至る〜

山形大学大学院医学系研究科 本間拓二郎

Homma, T., Takeda, Y., Nakano, T., Akatsuka, S., Kinoshita, D., Kurahashi, T., Saitoh, S., Yamada, KI., Miyata, S., Asao, H., Goto, K., Watanabe, T., Watanabe, M., Toyokuni, S., Fujii, J.
Defective biosynthesis of ascorbic acid in Sod1-deficient mice results in lethal damage to lung tissue. Free Radical Biology & Medicine 162:255-265
doi: 10.1016/j.freeradbiomed.2020.10.023 (2020)
https://doi.org/10.1016/j.freeradbiomed.2020.10.023


 Superoxide dismutase 1 (SOD1)は活性酸素として最初に生じるスーパーオキシドの消去を担う抗酸化酵素です。SOD1遺伝子を欠損したマウスの表現型は一見すると正常で、SOD1は個体の生存にとって必須ではないものの、貧血や皮膚の炎症・創傷遅延、脂質代謝異常を引き起こすことが分かっています。また、加齢に伴って筋力や運動能の低下および運動ニューロン変性が生じることが報告されていますが、いずれも表現型は比較的緩徐と言えます。ところが、このSOD1欠損マウスの胎児から線維芽細胞を採取すると、通常培養環境下(約21%酸素)において急速に老化が促進し、p53依存的な増殖抑制および細胞死が生じることがわかりました。抗酸化因子ビタミンC(アスコルビン酸)を培地中に添加することによってこのSOD1欠損線維芽細胞の細胞死は顕著に抑制されました。マウスなどの齧歯類をはじめとする多くの実験動物はグルコースを出発材料として肝臓でビタミンCを合成できるため、通常の飼育下ではビタミンC欠乏状態の病態解析には適しません。Aldo-keto reductase 1a (Akr1a) はビタミンC合成反応を触媒する重要な酵素であり、Akr1a遺伝子を欠損したマウスはビタミンC合成能が著しく低下することが分かっています。Akr1a単独欠損マウスはビタミンCを投与しなくとも1年程度は生存し、酸化ストレスが直接的な原因と考えられる障害は顕著ではありません。そこで本研究では、SOD1とAkr1aを両方とも欠損したマウスを樹立し、生体内でのスーパーオキシドの毒性軽減におけるビタミンCの役割について検証を試みました。
 樹立したSOD1・Akr1a二重欠損マウスは非常に病的な症状を示し、その多くが生後間もなく死亡しましたが、ビタミンC水(1.5 g/L)を自由摂取させることにより、一部のマウスは約1年程度延命可能でした。一方、成獣でもビタミンCの投与を休止すると、週齢や性別に関わらず、約2週間程度で死亡したことから、ビタミンCによるスーパーオキシドの消去がマウスの生命維持に必須であることが示唆されました。そこで、この死因を明らかにするために、投与休止後、マウスが死亡する前日に剖検を行い、臓器の病理組織学的解析を行いました。脳、心臓、肝臓および腎臓のヘマトキシリン・エオジン(H&E) 染色の結果、こうした臓器が原因となって死に至ると考えられる程度の障害は認められませんでした。一方、ビタミンC投与休止マウスでは、肺の気管支粘膜上皮の細胞の著明な腫大、リンパ球の浸潤が認められました。肺胞洗浄液中には炎症細胞数の増加や炎症性サイトカインの産生増加が認められ、肺病変による個体死を引き起こしたことがわかりました。以上の結果から、SOD1・Akr1a二重欠損マウスではビタミンC量の減少によりスーパーオキシドの肺毒性が顕在化したことを示しており、各種臓器の中でも、とりわけ肺の酸化障害からの保護におけるビタミンCの重要性が明らかになりました。今回の研究では、人為的な酸化ストレス誘導剤の投与などの薬物病態モデルと異なり、内在性の活性酸素・スーパーオキシドの生体への影響を顕在化することができたという意味で意義があると考えます。我々人間はSOD1遺伝子が欠損することはありませんが、過剰な活性酸素の産生は加齢性疾患や様々な病態との関連が報告されており、健康を維持するためにビタミンCを含めた抗酸化物質の適切な摂取が望ましいと思われます。

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