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Generation of a new model rat: Nrf2 knockout rats are sensitive to aflatoxin B1 toxicity

東北大学 大学院医学系研究科 医化学分野 
田口恵子、山本雅之(被支援者)

Taguchi K, Takaku M, Egner PA, Morita M, Kaneko T, Mashimo T, Kensler TW, Yamamoto M.
Generation of a new model rat: Nrf2 knockout rats are sensitive to aflatoxin B1 toxicity.
Toxicol Sci., 152:40-52 DOI: 10.1093/toxsci/kfw065(2016).

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27071940/


Keap1-Nrf2システムは、抗酸化や解毒代謝に関わる遺伝子の発現を制御する生体防御機構である。その分子の発見以来、本システムの解析は、Keap1やNrf2欠失マウスを作出・活用することによって飛躍的に発展してきた。しかし、マウスモデルには限界があることも知られている。実際に、マウスではヒト病態を模倣できないケースやマウスではできない手術モデルが存在する。そのような折に、我々はAdAMSの支援により、F344系統Nrf2欠失ラットを作出する機会を頂いた。

Nrf2遺伝子のエクソン5にジンクフィンガーヌクレアーゼ標的サイトを設計し、7塩基欠失(Δ7)型と1塩基挿入(+1)型の2つの変異体を得た。Nrf2欠失マウスでは、鉄沈着不全により切歯の着色が薄れて白歯になることが報告されているように、Nrf2欠失ラットにおいても白歯の表現型が現れた。また、Nrf2誘導剤の投与により、野生型ラット肝臓ではNrf2の核蓄積(活性化)と標的遺伝子の発現レベル上昇が観察される、一方、Nrf2欠失ラットではそのようなNrf2活性化はみられず、確かにNrf2が欠失していることを確認された。

そこで、Nrf2欠失ラットを用いて、マウスでは解析できないラットモデルとしてアフラトキシンB1(AFB1)による肝毒性を調べることにした。AFB1は食品を汚染するカビが産生する毒性物質で、ヒトにおいて肝臓がんの原因になる。しかし、マウスはAFB1の解毒代謝に関わるグルタチオンS-転移酵素(GST)活性が高いために、AFB1の肝臓がんを再現することができない。そのため、伝統的にAFB1の毒性実験の動物にはラットが用いられてきた。Nrf2欠失ラット肝臓では、AFB1解毒代謝に関わるGSTやアルド-ケト還元酵素(AKR)の発現が低下しており、解毒代謝酵素であるGSTやAKRはラットにおいてもNrf2の標的遺伝子産物であることが実証された。AFB1を単回投与したNrf2欠失ラットでは、血中の肝障害マーカーのレベルが高く、遺伝子変異マーカーとなるAFB1-DNA結合体・AFB1-N7-グアニンが尿中に高レベルで検出された。さらに、野生型ラットでは顕著な毒性を示さない量のAFB1を反復投与した際に、Nrf2欠失ラットでは半数以上が致死に至った。

以上より、本支援により作出したNrf2欠失ラットを用いて、マウスでは解析できなかったAFB1肝毒性に対してNrf2が防御に働くことを実証することができた。なお、我々と同時期に米国ウィスコンシン大学において別の研究目的で、TALEN技術によりSD系統Nrf2欠失ラットが作出されている(Priestley JRC et al. Am J Physiol Heart Circ Physiol, 310: H478-487, 2016)。

このように、ゲノム編集技術の到来により、これまで困難であったマウス以外の動物の遺伝子改変も容易に作出することができるようになった。世界的な研究競争激化の中で、AdAMSの支援により、日本から新たなモデル動物の作出とそれらを用いた研究が次々と発信されることを期待したい。末筆になったが、本研究には真下知士博士(現東京大学)からAdAMSを通じて献身的なご支援を頂いた。深甚の謝意を表したい。

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