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  5. システイン残基(コドン35番目)の置換によるMC1Rの機能喪失の確認

システイン残基(コドン35番目)の置換によるMC1Rの機能喪失の確認
〜機能喪失も黒色色素生産と背腹部毛色濃淡が維持〜

モデル動物作成支援
北海道大学 地球環境科学研究院 鈴木 仁

Hitoshi Suzuki, Gohta Kinoshita, Takeru Tsunoi, Mitsuki Noju, Kimi Araki
Mouse Hair Significantly Lightened Through Replacement of the Cysteine  Residue in the N-Terminal Domain of Mc1r Using the CRISPR/Cas9 System
Journal of Heredity, 111: 640-645 (2020), doi: 10.1093/jhered/esaa054


哺乳類において毛色は環境の変化に応じた迅速な進化が必要とされる形質である。毛色はユーメラニン(黒色色素)とファオメラニン(黄色色素)の2つの色素が毛周期システムの制御を受け生産され、アグーチパターンというバンドパターンが形成される。色素生産細胞でそのシグナル伝達を担当する受容体がmelanocortin 1 receptor (MC1R)であり、ユーメラニンの生産を誘導する(図1a)。一方、agouti signaling protein (ASIP)産物のアグーチタンパク質は受容体MC1Rに作用し、フェオメラニン生産を導く。このMC1RとASIP遺伝子に変異が生じ、進化が誘導されていく。本研究では、北海道に生息するクロテン(Martes zibellina)の集団内多型として知られる全身黄色性変異の責任変異を特定するために、CRISPR/CAS9システムを用い、候補変異であるMC1RのN端の細胞外ドメイン上のシステイン残基(35番目のアミノ酸)をフェニールアラニン残基に置換したマウスの作出を試みた。
 C3H/HeJ系統およびC57BL/6N系統においてMc1rのゲノム編集を行い、当該のコドンサイトにおいてCys33Phe変異を持つF2個体を得た(図1b)。その結果、1つのアミノ酸置換変異(Cys33Phe)および意図せずに生じたフレームシフト変異の双方において、野生型に比べ体色が大幅に明るくなった毛色変異体を得た(図1c,d)。これにより、受容体のN端の細胞外ドメインのシステイン残基の消失により受容体MC1Rの機能が完全に失われることを確認することができた。当該のシステイン残基の消失が北海道産のクロテンの色変異体の責任変異であることを確定することができた。
 注目すべきは、ゲノム編集操作でMc1rの機能喪失型変異を得たC3H/HeJとC57BL/6Nの2つの系統の両方で、背部の毛の上部半分にユーメラニンの着色が認められたことである(図1d)。一方、通常マウスは腹部の毛色の明度が高く、隠蔽効果を持つカウンターセーディングパターンを示す。これは腹部特異的にアグーチタンパク質の生産が発動しているためと理解されているが、今回のMc1r機能完全消失型変異マウスおよびAsip発現能力が消失しているC57BL/6Nを背景とするマウスは共に明瞭な背部と腹部の濃淡パターンを示す。したがって、1本の毛におけるバンドパターンおよび背腹部の濃淡パターンはMC1RASIPのシステムが欠落していても、具現できる機能が現在も維持されていることが明らかとなった。
 今回先端モデル動物作製支援によって作製されたMc1r遺伝子改変マウスは、脊椎動物特異的MC1R/ASIP色素生産制御機構の進化を一層理解していくための有益なモデル動物であると思われる。

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