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MEIOSIN directs the switch from mitosis to meiosis in mammalian germ cells

熊本大学発生医学研究所 石黒啓一郎

Ishiguro K*, Matsuura K, Tani N, Takeda N, Usuki S, Yamane M, Sugimoto M, Fujimura S, Hosokawa M, Chuma S, Ko S.H.M, Araki K, Niwa H.
MEIOSIN directs the switch from mitosis to meiosis in mammalian germ cells.     
Dev. Cell 52(4),429-445(2020) DOI:10.1016/j.devcel.2020.01.010


全身の組織・器官では、通常「体細胞分裂」と呼ばれる細胞分裂によって細胞の増殖が行われます。一方、卵巣や精巣では「減数分裂」と呼ばれる特殊な細胞分裂が行われて卵子や精子が作り出されます。いずれも細胞分裂でありながら、体細胞分裂は同じ染色体(遺伝情報)を倍加させてからそのコピーを均等に分裂することにより元と同じ2つの細胞を作り出すのに対して、減数分裂は染色体の数が元の半分になることにより母方・父方の遺伝情報だけを持つ卵子や精子を作り出します(図1)。卵巣や精巣では、はじめは通常通りの体細胞分裂を行って細胞増殖が行われ、ある一時期を境に減数分裂が行われます。しかしながら、体細胞分裂から減数分裂に切り替わるメカニズムの詳細は不明であり、減数分裂のコントロールは不妊症治療などの生殖医療とも直結する重要な問題でありながら、世界的にも長年解明されない課題でした。

図1 体細胞分裂から減数分裂に切り替わるメカニズム


我々は生殖細胞が卵子や精子を作り出す過程で減数分裂がどのように起きているのかを調べるために卵巣と精巣内に含まれるタンパク質の解析を行いました。体細胞分裂から減数分裂に切替わる時期に一過的に発現を示すSTRA8と呼ばれるタンパク質を効率良く精製できるように遺伝子改変マウスを開発しました。これにより、ごく僅かな細胞集団から微量タンパク質のSTRA8とその会合因子を精製することに成功しました。質量分析法を駆使した解析により、STRA8の会合因子の中から減数分裂の“スイッチ”として働く遺伝子を特定し、これを減数分裂開始因子「MEIOSIN」(マイオーシン)と命名しました。この MEIOSINは、卵巣や精巣内で減数分裂が始まる直前の特定の時期にだけ活性化するという極めて珍しい性質を持っていることがわかりました。そこで、ゲノム編集によりマウスのMEIOSINの働きをなくすと、オスもメスも減数分裂が起こらなくなるため、卵子や精子がまったく作られず不妊となることが判明しました(図2)。さらにそれらのマウスの卵巣・精巣を詳細に解析することにより、MEIOSINが減数分裂の開始に必須の働きをしており、卵子や精子の形成に関わる重要な遺伝子であることを解明しました。
本研究ではMEIOSINが、卵巣・精巣内で減数分裂を開始させる働きをもつことを明らかにしました。今回の研究によりMEIOSINが減数分裂のスイッチを入れ、それによって数百種類におよぶ精子・卵子の形成に関わる遺伝子が一斉に働くことがわかりましたが、それらの働きの詳細はまだ十分に解明されていません。このうち、既にいくつかの遺伝子については引き続き先端モデル動物支援プラットフォームの支援のもと研究を進めており、すでに成果をあげたものもあります(Takemoto et al. Cell Rep.2020, Tanno et al Scientific Rep. 2020)。
本研究はマウスを用いて検証されたものですが、MEIOSINはヒトにも存在することがわかりました。ヒトに見られる不妊症は原因が不明とされる症例が多いことが知られています。今回の発見は、特に卵子や精子の形成不全を示す不妊症の病態の解明に資することが期待されます。今後は卵子・精子の形成過程におけるこれらの遺伝子の働きを解明することにより、生殖医療に大いに貢献することが期待されます。

図2ゲノム編集によりMEIOSINの働きを阻害する実験

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