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成長円錐の小胞とアクチンの挙動解明
超解像度観察により、成長円錐の小胞とアクチンは神経成長の間、協調運動を行っている

新潟大学医歯学系神経生化学(医学部生化学第二) 五十嵐 道弘

Nozumi M, Nakatsu F, Katoh K, *Igarashi M.
Coordinated movement of vesicles and actin bundles during nerve growth revealed by superresolution microscopy.
Cell Rep, 18: 2203-2216, DOI: 10.1016/j.celrep.2017.02.008. 2017


 成長円錐は発達期の神経細胞の突起先端に形成される運動性に富んだ構造体で、神経の成長を担い、経路選択を行って神経回路形成に決定的な役割を果たすと考えられています。また大人の脳でも、可塑性に伴う新規シナプス形成や、神経損傷時の修復に伴う回路再編にも寄与すると考えられます。

 神経成長においては、細胞骨格の重合とそれに伴う膜表面積の拡大が同時にかつ協調的に行う必要がありますが、これまで膜の動きは小胞が大量に存在するC-domain (central domain)という部分のみで観察され、細胞骨格に富んだP-domain (peripheral domain)ではそれが観察されず、両者の協調運動がどのように起こっているのかは全くわかりませんでした。

 超解像度顕微鏡は、200 nmという光学顕微鏡の分解能を超えた蛍光顕微鏡で、分子の挙動を見るのに適しています。超解像観察の原理に基づいて種々のタイプがありますが、今回は動的なリアルタイムの解析が可能な3D-SIM(structured illuminated microscopy)型の動入を行いました。超解像度顕微鏡は、1) 単に小さな構造を見るのに適しているだけでなく、2) 非常に稠密で光学顕微鏡の分解能以下に接近している構造の識別、3) および3次元的な行動の解析(Z軸方向の解析)、にも優れた能力を発揮することが分かりました。

 その結果、P-domainのleading edgeに接近した部位に、膜の動的な動きが見いだされ、これは特定の膜タンパク質のエンドサイトーシスとして観察されることが分かりました。この動きは、細胞骨格アクチン繊維の束化と関連して起こり、ファシンというアクチン調節タンパク質の機能と連動していました。ファシンの働きを阻害すると、膜の動きも失われ、また神経成長自体も阻害されることが分かりました。

 この動きはクラスリン非依存性で、かつエンドフィリン、ダイナミンを要することが分かりました。これは、昨今シナプスやウイルス感染、一部の免疫系シグナリングに関係する速いエンドサイトーシスと類似性があります。またこの動きは、Z軸方向の動きであり、C-domainで観察されているクラスリン依存性のエンドサイトーシスとは空間的な配置も異なることが分かりました。

 これらの知見は神経回路形成に対する成長円錐の役割を明確化した革新的知見で、神経再生の研究にも基盤となる新たなメカニズムとなります。

図: 超解像度顕微鏡から観察から見いだされた新たな成長円錐の像:エンドフィリン依存性のエンドサイトーシス(EME)はクラスリン依存性エンドサイトーシス(CME)とは異なる部位に存在し、前者はファシン(FScn1)で調節されるアクチン繊維の挙動と連動している

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