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トポイソメラーゼ阻害活性を有する海洋天然物lamellarin N (LamN) の化学修飾による耐性EGFR T790M/C797S阻害薬の創製

岩手医科大学 薬学部 西谷直之
長崎大学環境保全センター 福田勉(被支援者)

Nishiya, N., Oku Y., Fukuda, T., Dan, S., Mashima, T., Sakyo, T., Seimiya, H., Yamori, T., Iwao, M., Uehara, Y.
Lamellarin 14, a Derivative of Marine Alkaloids, Inhibits the T790M/C797S Mutant Epidermal Growth Factor Receptor.
Cancer Sci. 112: 1963-1974 DOI: 10.1111/cas.14839. (2021)
https://doi.org/10.1111/cas.14839


 EGFR活性化変異陽性の非小細胞肺がんにEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (EGFR-TKI) 著効します。しかし、ゲートキーパー変異T790Mや不可逆的TKI耐性変異C797Sは、その有効治療期間を短縮させる要因となっています。
 本支援の前身である文部科学省新学術領域研究・がん支援「化学療法支援活動」によるスクリーニングにおいて、トポイソメラーゼ阻害活性を有する海洋天然物lamellarin N (LamN) がL858R変異EGFRに対して有効であることが判明しました。そこで我々は、EGFRキナーゼドメインとLamNとのドッキングシミュレーションの知見を基に、LamNのA環部の構造改変によるEGFRへの結合性の改善を試みました (図1)。その結果、A環部20位、21位に塩基性官能基を導入したlamellarin 14 (Lam14) がin vitroで、LamNに比較して100倍以上のEGFR阻害活性を示すことを見出しました (IC50値 8.9 nM) [Bioorg. Med. Chem. 25: 6563-6580 (2017)]。


図1 トポイソメラーゼ阻害活性を有する海洋天然物lamellarin N (LamN) の構造改変によるEGFR-TKIの分子設計

 本研究では、Lam14のT790M/C797S変異型EGFRに対する阻害活性についてさらに研究を進めました (図2)。まずLam14について分子プロファイリング支援活動の細胞株パネル解析およびトランスクリプトーム解析を行っていただきました。その結果、LamNのトポイソメラーゼ阻害剤様の生物活性が、Lam14ではキナーゼ阻害剤様の活性に変化していることを明らかにできました。またEGFRのエクソン19内のインフレーム欠失 (del ex19)/T790M/C797Sの三重変異体を発現するBa/F3細胞およびPC-9細胞は、EGFRのdel ex19またはdel ex19/T790Mを発現する細胞の有効用量と同程度の用量範囲でLam14に感受性を示しました。さらにdel ex19/T790M/C797S三重変異型EGFRを発現するPC-9細胞においてLam14は、EGFRの自己リン酸化および下流のシグナル伝達を減少させました。なおBALB/c nu/nuマウスを用いたマウス異種移植モデルでも、10mg/kgのLam14を17日間腹腔内投与することで、三重変異型EGFR PC-9細胞の腫瘍増大を抑制しました(図2A)。その間、体重減少など、目立った毒性は観察されませんでした(図2B)。さらに、移植腫瘍の免疫組織染色の結果、Lam14によるEGFRリン酸化レベルの低下が確認できました(図2CD)。以上のように我々は、トポイソメラーゼ阻害活性を有する海洋天然物LamNの化学修飾によって、Lam14のようなC797Sを含む変異型EGFRを特異的に阻害するTKIを創出できることを見出しました。
 既存のEGFR-TKIが主に4-(フェニルアミノ)キナゾリンや2-(フェニルアミノ)ピリミジン骨格を基盤とした構造を持っているのに対して、Lam14はラメラリンという既存のものとは大幅に異なる構造を有しています。したがってLam14は、既存のEGFR-TKIとの交差耐性を生じないような新たなEGFR-TKIの基本骨格となりうることが期待されます。


図2 マウスゼノグラフトモデルにおけるLamellarin 14 (Lam14) の三重変異型EGFR PC-9細胞の腫瘍増殖抑制活性

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