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発達期のシナプス刈り込みを調節する分子を発見
〜前頭側頭型認知症の関連遺伝子グラニュリンの新たな機能の解明〜

東京大学 大学院医学系研究科 神経生理学分野、
国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)*:
上阪直史、渡邉貴樹(被支援者)、狩野方伸*

Naofumi Uesaka, Manabu Abe, Kohtarou Konno, Maya Yamazaki, Kazuto Sakoori, Takaki Watanabe, Tzu-Huei Kao, Takayasu Mikuni, Masahiko Watanabe, Kenji Sakimura and Masanobu Kano
Retrograde Signaling from Progranulin to Sort1 Counteracts Synapse Elimination in the Developing Cerebellum.
Neuron 2018 Feb 21;97(4):796-805.e5. DOI: 10.1016/j.neuron.2018.01.018.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0896627318300217?via%3Dihuba


統合失調症や自閉スペクトラム症の病態の根底には、神経回路の発達異常があると考えられています。生後間もない脳においてシナプスはいったん過剰に形成された後,環境や経験に依存して必要なシナプスは強められて残り,不要なシナプスは除去されます。この現象は「シナプス刈り込み」と呼ばれており,生後発達期の脳内で普遍的に起こる重要な現象であり,成熟した機能的神経回路を作るために不可欠な過程であると考えられています。しかし、シナプス刈り込みがどのような仕組みによって起こるかは完全には理解されておらず、とくに必要なシナプスが強められる仕組みはほとんど不明でした。
今回、私たちは、発達期の小脳において、前頭側頭型認知症の関連遺伝子グラニュリンがシナプス刈り込みを調節することを発見しました。発達期のマウス小脳の登上線維とプルキンエ細胞との間のシナプスにみられるシナプス刈り込みに注目しました。シナプス後部のプルキンエ細胞から放出されたプログラニュリン分子が、シナプス前部の登上線維に存在するSort1受容体に、逆行性シグナルとして働き、特定の登上線維シナプスを強くするとともに、不要なシナプスの除去を遅らせることを明らかにしました。グラニュリン遺伝子の変異は認知症の一種である前頭側頭型認知症のヒトで見られ、また血中内でのプログラニュリン濃度の減少が自閉スペクトラム症のヒトで見られています。本研究の成果は生後発達期の機能的神経回路形成のメカニズム解明に貢献するとともに、前頭側頭型認知症や自閉スペクトラム症の病態解明に貢献する可能性があります。
モデル動物支援を利用してグラニュリンのfloxマウスを作製し、プルキンエ細胞特異的ノックアウトマウスの解析に役立ちました。

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