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DMBA/TPA多段階皮膚発がんモデルを用いたp19Arfに存在する非同義置換多型の機能解析

千葉県がんセンター研究所 若林雄一

Saito, M., Okumura, K., Isogai, E., Araki, K., Tanikawa, C., Matsuda, K., Kamijo, T., Kominami, R., Wakabayashi, Y.
A Polymorphic Variant in p19Arf Confers Resistance to Chemically Induced Skin Tumors by Activating the p53 Pathway.
J Invest Dermatol.139(7):1459-1469 DOI: 10.1016/j.jid.2018.12.027 (2019).

https://www.jidonline.org/article/S0022-202X(19)30032-6/fulltext


ヒト孤発性がんは、がん発症全体の約8割を占め、今後ヒト孤発性がんの原因遺伝子およびそれらの機能的なSNPの同定がヒト発がん抵抗性機序解明に重要となってきます。

我々は、日本産野生由来近交系マウスMSM/Ms系統の発がん抵抗性に着目し、DMBA/TPA多段階皮膚発がんマウスモデルを用いた順遺伝学的手法により、がん感受性/抵抗性遺伝子の同定を目的とし研究を進めています。これまでにMSM/Ms系統に発がん感受性であるFVB/N系統を戻し交配することでN2個体 [ (FVB/N×MSM/Ms) F1×FVB/N ] を作製し、DMBA/TPA多段階皮膚発がん実験の後、連鎖解析を実施し、マウス第4番染色体上に良性腫瘍発生後期に対する抵抗性遺伝子座としてStmm3 (Skin tumor modifier of MSM 3) をマップしました。さらに、悪性化因子をスクリーニングする目的で、強力ながん抑制遺伝子であるp53遺伝子のノックアウトマウス (p53+/-) を用いサブコンジェニック系統を作製し、DMBA/TPA多段階皮膚発がん実験を実施しました。その結果、p53+/+群にほとんど発生しない後期良性腫瘍が、p53+/-群において発生することが認められ、Stmm3遺伝子座がp53遺伝子に機能的に依存することが明らかとなりました。

Stmm3候補領域には23個のコーディング遺伝子が存在しています。ここまでの解析結果をもとに、本研究では候補遺伝子としてがん抑制遺伝子Cdkn2a/p19Arfに着目しました。Cdkn2a/p19Arf は、p53遺伝子に機能的に依存し、がん抑制方向に機能します。さらに、MSM/MsとFVB/N系統間のアミノ酸配列を比較すると、p19Arf のC末端側に1箇所の非同義的置換を起こす多型が存在していました。候補遺伝子として着目したp19Arfp16Ink4aとエクソンを共有しコ-ディングされています。そこで、CRISPR/Cas9システムにより作製したMSM/Ms系統の遺伝的背景を持ったp19Arfおよびp16Ink4aノックアウトマウスを用い、FVB/N系統と交配することでF1個体を作製し、DMBA/TPA多段階皮膚発がん実験を実施することにより、原因遺伝子の同定を試みました。その結果、p19Arf MSMノックアウトマウスでは良性腫瘍発症数の増加が認められ、p16Ink4aMSM ノックアウトマウスでは良性腫瘍発症数の増加が認められませんでした。次に、MSM/MsおよびFVB/N系統におけるp19Arfのアレル機能解析を個体レベルで実施するため、MSM/MsおよびFVB/N系統の遺伝的背景を持ったp19Arfノックアウトマウスを交配することでF1個体を作製し、DMBA/TPA多段階皮膚発がん実験を実施しました。その結果、p19Arf MSMアレルノックアウトマウス (p19Arf FVB/- マウス) において、良性腫瘍、扁平上皮がん発症数の増加が認められました。これらの結果から、p19Arf MSMアレルがより強い発がん抵抗性を示すことが示唆されました。

さらに、p19Arfに存在する非同義置換多型の機能解析を実施するため、NIH/3T3細胞を用い、MSM型とFVB型の遺伝子多型を導入したp19Arf発現培養細胞株と、本研究において作製したp19ArfF1ノックアウトマウスの皮膚組織を用い、TPA処理後のタンパク質の発現解析等を実施しました。その結果、p19Arf MSM発現培養細胞株およびp19Arf FVBアレルノックアウトマウス (p19Arf -/MSM マウス) において、p19Arfタンパク質の発現増加、p53タンパク質およびp53標的遺伝子 (p21, Noxa, Bax) の発現増加が確認できました。

本研究では、p19Arfの多型がStmm3原因遺伝子の有力候補と考えられ、p19Arf MSMアレルがp53シグナル経路をより効果的に活性化し、皮膚腫瘍形成抑制に関与している可能性をin vivoおよびin vitro解析により実証しました (図1)。さらに、ヒト検体を用いたアソシエーションスタディーの結果、ヒトCDKN2A周辺領域における多型が、乳がん発症と相関することが示唆され、マウスから得られた遺伝的学的情報がヒトがん関連遺伝子の新規SNPの同定および新規機能解明に繋がる可能性を示しました。

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